新年・怀念

今となっては、その記憶すら定かでない。
夕暮れだったか、果たして夜更けだっただろうか。
雨が降っていたような気もするし、乾いた真っ暗な空の日だったかもしれない。

市内の南方から南京路までタクシーを飛ばす。
いつもとは違うルートでこの日は高架道路を走らず、車はいつの間にか租界時代の魔力に誘い込まれるかのように、当時の洋館が立ち並ぶお屋敷街を滑り始めていた。
宛平路、永福路、それから復興路を横切り湖南路へ。
迷路のように延々と続く白壁の間をプラタナスの街路樹が鬱蒼と茂り、交差点近くの露店で煌々と照らされる裸電球だけが冬の景色を寂しく彩っている。
そこにはあの、滾るような中華の色合いは感じられない。

表通りには、波のように押しては返す人々の流れと、物言わずとも饒舌に欲望を語り出す摩天楼と鮮やかなネオンサイン。
この街には、希望や焦燥感に胸を膨らませて迎える新年よりも、行く年への愛惜の念だけで心が満たされるような、そんな過ごし方が似合っている。

上海の光と陰が、紅一色に色づく唯一の季節。旧正月がまもなく訪れようとしている。

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