珈琲時光

私は人から言われるような浮世離れしたイメージとは、本当は全然違う。
だからその分憧れは人一倍強いかもしれない。

机を挟んで向かい合わせに座っている間中、私はずっとファインダー越しの被写体を眺めるかのような眼差しで彼女を見つめていた。
ライティングもメイクもいらない。
今目にしている景色をそのまま形として残しておきたいような衝動に駆られた。
カメラを取り出して「撮らせてね」なんて言ってもよかった。
でもその完璧なまでに、そして驚くほど自然に演出された光景があまりにも気後れしてしまいそうで、穏やかな空気の流れを無機質な機械音で切るようなことはしたくなかった。

話の切れ間にふと窓の外に目をやると、いつもと変わらぬ仏蘭西租界の風景。
プラタナスの木陰と老房子の壁面に柔らかく反射する白い光、その間を縫うように走る錆付いたビビッドカラーの自転車。
ようやくこれが日常の景色となった幸せ。
そして長年目にしたこの景色を後にしようとする人。
ほんのわずかでもあなたと同じ時間にこの街にいたことを、ずっと忘れられないだろう。